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第16回焼き鳥雑学講座

皆さんこんにちは!
お気楽菜彩なんやかや、更新担当の中西です。

 

さて今回は

~コース設計~

 

0|基本哲学:軽→重、塩→タレ→塩、香りで締める

  • 立ち上がりは “繊細×短尺”で舌を整える

  • 中盤はタレ系で甘味と厚みを作り、脂のピークを一度迎える

  • 終盤は香りと余韻で軽く着地(柑橘・山椒・香味油)

  • 12串で約420–540g(1串35–45g目安)。提供間隔4–5分、総時間75–90分。


1|全12串・標準フロー(塩7|タレ5)

串名[味付け|目安g|狙い]— “焼きメモ”

  1. さび焼き(ささみ)[塩+わさび|35g|口ならし]
    近火で表面を決め→遠火で**内温58–60℃**手前、1分休ませて供す。

  2. 砂肝[塩|40g|軽い歯応えで覚醒]
    強火短時間。塩0.9%、脂泡が細かく変わる瞬間で返し。

  3. ねぎま[塩薄|45g|水分と甘みの橋渡し]
    葱の蒸気で保湿。仕上げに柚子皮ひと擦りで香りを跳ね上げる。

  4. ハツ[塩|40g|鉄分の香りでリズムに起伏]
    近火→遠火。中心は薄桃色を残す。胡椒は控えめ。

  5. つくね[タレ|45g|初のタレで余韻を付与]
    タレは70–75℃保温で艶出し。卵黄添えは“味の階段”が跳ねる。

  6. 皮パリ[塩|40g|食感アクセントで中盤へ]
    弱遠火で脂を抜き→近火で香ばしさ。塩は振り増しで二段
    箸休め①:大根おろし・酢キャベツ・出汁割り(30–60秒)

  7. レバー[タレ|40g|甘香で中盤のピーク1]
    漬けは短く、表面だけタレ絡め。内温は上げすぎない。山椒微量。

  8. 手羽先[塩+柚子胡椒|50g|脂のピーク2(旨脂)]
    遠火長時間で骨際まで。柑橘でキレを。

  9. もも肉[タレ|45g|“王道の甘辛”で満足度を確定]
    タレ二度漬け→近火で糖の焦げ目を点で作る。
    箸休め②:香の物・鶏清湯ひと口(30–60秒)

  10. せせり[柚子塩|40g|立ち上がる香りで軽く持ち上げる]
    噛み戻りのある部位で再度の食欲スイッチ。

  11. ぼんじり[塩 or 黒胡椒|40g|キレのある脂で余韻づくり]
    油滴が透明→黄金に変わるタイミングで。胡椒は片面だけ。

  12. ちょうちん/そり(在庫で選択)[タレ|40–45g|記憶点]
    たまごの濃厚さ or そりの香味脂で最後の一口の物語を作る。
    :鶏出汁茶漬け or スープ(任意・小量)

※内臓が苦手なお客さまには**#4ハツ→むね柚子胡椒**、#7レバー→つくねチーズに差し替え。
※飲みが早い卓には**#6と#10**の間隔を短くし、“脂の谷”を作らない。


2|火床と塩梅の運用

  • 近火:表面を決める“立ち上げ”ゾーン(ささみ開始、つくね仕上げ)

  • 遠火:芯入れ・脱脂ゾーン(皮・手羽・ぼんじり)

  • 休ませ:網上の“影”で1分以内(肉汁の再分配)

  • 下味塩0.9–1.2%(肉重量比)。脂が多いほど薄め→焼き上がりで追い塩。

  • タレ:還元し過ぎない温度(70–75℃)で保温・煮沸ローテを厳守。


3|ペアリングの指針

  • #1–3(繊細):生酛純米の冷や/軽めのソーダ割り

  • #4–5(香り・初タレ):純米吟醸の常温 or ハイボール

  • #6–9(脂と甘辛のピーク):ビール→ハイボール→濃いめの茶割り

  • #10–12(香りで着地):柑橘サワー/山椒ハイ/微発泡の日本酒


4|季節アレンジ

  • :#3ねぎま→葉玉ねぎ焼き/#12→筍つくね

  • :#8手羽→胸の昆布〆・炙り/箸休めに酢橘おろし

  • :#11ぼんじり→銀杏ベーコン/タレに新生姜シロップで香り足し

  • :#1ささみ→さび焼き+温出汁/〆は鶏スープ雑炊一口


5|運用ミニSOP

  • 串重量:赤身35–40g、脂・手羽40–50gで誤差±3g以内

  • 提供間隔:4–5分/卓。炉前常時3串先行で渋滞回避

  • アレルギー・苦手:入店時に内臓・辛味・柑橘を確認、#4/#7/#12の差替えリストを席番に紐づけ

  • タレ衛生:営業前後完全煮沸→漉し→比重・糖度チェック、継ぎ足しログ

  • 塩管理:岩塩(立ち上がり)+海塩(仕上げ)の二段使いをラベル分け

  • 記録焼成時間・返し回数・お客の反応を日報で標準化(KPI化)


6|トラブル時のリカバリー

  • 提供が詰まる:#6皮→**冷菜(鶏わさ)**に差し替えで1分稼ぐ

  • 脂重で飽き気味:#9の前に大根おろし+ポン酢、#11を柚子塩に変更

  • 飲みが早い:#5つくねを早出し、#8手羽を遅らせて脂の山を一つに集約


7|仕込みの“勝ち筋”チェックリスト

  • ささみ:**中心58–60℃**で止める練習(温度計必携)

  • つくね:胸ベースに皮10%・軟骨5%・塩1.3%(低温で粘りを出す)

  • タレ:比重1.22±0.01/糖度34–36°Bxで艶とキレのバランス

  • 皮:遠火12–15分で脱脂→近火30秒で香りづけ


8|12串は“物語”。起承転結で記憶に残す

  • :ささみ・砂肝・ねぎまで輪郭を描く

  • :ハツ→つくね→皮でリズムとアクセント

  • :レバー→手羽→ももで甘香と脂のピーク

  • :せせり→ぼんじり→ちょうちん/そりで香り高く着地
    箸休めと出汁を挟み、塩→タレ→塩の呼吸で飽きを作らない。
    “もう一串食べたい”で終わらせるのが、最高のコース設計です。

 

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第15回焼き鳥雑学講座

皆さんこんにちは!
お気楽菜彩なんやかや、更新担当の中西です。

 

さて今回は

~哲学

1|一串一会:部位と向きが味を決める

同じモモでも、繊維の向き・脂の乗り・厚みで火の通りは変わります。
串打ちは“料理の半分”。

  • カット:繊維を断ち、1ピース12〜18g程度で均一化

  • 配置:脂の多いピースを外側、赤身は中央

  • 串材:竹の含水で熱伝導を調整(乾燥し過ぎはNG)

2|塩とタレは二大言語——素材と会話する

塩は0.8〜1.2%を基準に、部位の水分と脂で微調整。
タレは継ぎ足し=記憶
。新しい旨味を重ねつつ、毎日煮沸・漉し・補糖/補醤で衛生と輪郭を守る。
塩で“輪郭”、タレで“余韻”を描くのが基本思想。

3|火の作法:近火・遠火・余熱の三位一体

備長炭の輻射×対流を読み、

  • 立ち上げは近火で表面を決める

  • 芯入れは遠火で穏やかに

  • 休ませで肉汁を落ち着かせ、仕上げで香りを乗せる
    火は強さではなく“距離”と“時間”で制御するのが信条です。

4|順番は設計思想:軽→重、乾→湿、香りの階段

スタートはさび焼き/ささみの柚子胡椒などの軽い香り。
中盤にねぎま・つくねでタレの厚み、終盤に手羽先・ぼんじりで脂の余韻。
合間にお新香・大根おろしで舌をリセット——味の階段を上り下りさせます。

5|衛生は哲学の土台:おいしさ=安心の上に成り立つ

  • 生と加熱の動線分離、器具の色分け

  • 中心まで十分な加熱(内温を安全域へ)

  • タレ壺は温度管理・煮沸・漉しを日課に
    味は再現できて初めて哲学になる。だから記録・温度計・タイマーを“感性の相棒”にします。

6|全鳥主義:一羽の“履歴”を丸ごと提供する

胸・モモ・手羽だけでなく、せせり・そり・はつ・砂肝・背肝・ちょうちんまで。
“捨てる部位を作らない”は、生産者への敬意であり、店の美学。希少部位は出す理由と出さない勇気のバランスで。

7|塩梅学:数値と感覚のハイブリッド

  • 下味の塩は重量%で測る

  • 焼成は目視(脂の泡の大きさ)+音(ジュッ→チリッ)+香りで詰める
    職人の勘をKPI化して、誰が焼いても“店の味”に収束させるのがチームの哲学。

8|対話するカウンター:ライブは味の一部

焼き台は舞台。火の向こう側で、客の速度・表情・杯の減り具合を見て順番を変える。
“こちらの塩が続きましたので、次は少し甘いタレで”——言葉と配慮も調味料です。

9|サステナブルな炭と仕入れ

  • 炭は産地と製法を選び、煙と香りを設計

  • 鶏は育ち・飼料・処理まで遡って選ぶ

  • 出汁やスープ、〆の鶏スープ茶漬けでロスを減らす
    長く続く店は、資源の循環まで味に含めています。

10|“もう一串食べたい”で終える

満腹の先ではなく、余白で終わるのが美学。
最後はさっぱりの柑橘・山椒で口を整え、また来たくなる記憶を残す——余韻設計が店の流儀です。


つくねとねぎま、二大看板の思想

  • つくね:胸ベースに皮10%・軟骨5%、塩1.3%。塩で“輪郭”、タレで“艶”。

  • ねぎま:葱の水分で肉汁を守る設計。塩は薄め、仕上げに柚子皮ひと擦りで香りを跳ね上げる。


家で試すなら:哲学の“片鱗”を三つだけ

  1. 塩を測る(1%前後)

  2. 焼いたら1分休ませる(肉汁の再分配)

  3. 軽→重の順で出す(記憶に残る流れができる)


火と塩と会話する

焼き鳥の哲学は難しくありません。
部位を尊重し、塩で輪郭を出し、火で物語を完結させる。
その繰り返しを、衛生・記録・配慮で支える。
一串の中に生産者・職人・お客の時間が重なる——それが焼き鳥屋の矜持です。

 

 

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